86年(138年)春3月、遂成は質陽で田猟し、7日たっても戻らず、無節操に楽しんだ。
秋7月、遂成は箕丘で田猟し、5日たってやっと帰ってきた。弟の伯固が諫めて言った。
「禍福に門はなく、それは人が自ら招き寄せるものです。今あなたは王弟という立場であるがゆえに百官の長となり、官位は最上位に達し、その功績も素晴らしいものです。
だからこそ、忠義の心を持ち、礼儀をわきまえて譲るべきところは譲り、己の欲に負けないようにしてください。そうすれば、上は王の徳と同じになり、下は民の心をつかむことになります。その後は、富貴があなたから離れることはなく、禍害や混乱は起こらないでしょう。
しかし、今のあなたは快楽を貪り求め、憂慮することを忘れています。ご自分の足元が危いのがお分かりにならないのですか」
遂成が答えて言った。
「凡人は富貴と歓楽を求めるものだ。ただ、万人に一人しかそんな幸運に恵まれないだけなのだ。王位に就くという運勢が私に巡ってきているのに、その志をいまだ遂げずにいる。それなのにどうしてあなたの言うことが聞けよう」
遂成は伯固の忠告に従わなかった。
90年(142年)秋9月、都の丸都(中国吉林省集安市)に地震が起った。王は豹が虎の尻尾を噛み切る夢を見た。目覚めてからその吉凶を占わせた。ある巫女が言った。
「虎は百獣の長で、豹は同類ですが小物です。この夢は『王族の中に王統を絶とうとする者がいる』ということを意味しています」
王はこれを不快に思い、右輔の高福章に言った。
「我が見た夢について巫女がこのように告げたのだが、どうしたらよいものかのう」
高福章が答えて言った。
「善行を積まなければ、たとえ夢占いで吉と出ても実際は凶となりますし、善行を積めば夢占いで災と出ても福となります。いま大王は国を憂うること我が家の如く、民を愛すること我が子の如くでございます。些細な事件はあるかもしれませんが、大王を傷つけるような大事件など起こるはずがございません」