94年(146年)秋7月、遂成は倭山の麓で田猟し、近臣の者たちに言った。
「大王は老いているが死ぬ気配がない。私の人生はそろそろ終わろうとしている。もうこれ以上待つことはできない。おまえたちが私の計略に加わってくれるのを願うばかりである」
側に仕える者たちは皆「謹んで仰せに従わせていただきます」と返事をした。
そのとき、ある家臣がひとりだけ進み出て言った。
「遂成様が不祥の言葉を吐いておられるのに、左右の者は誰も諫めることができず付き従うばかり。このような者を悪賢く媚びへつらう姦臣というのです。私は遂成様から直にお聞きしたいのです。あなた様の尊意はどこにおありなのでしょうか?」
遂成が答えた。
「そなたの直言は薬石そのものである。しかし、そなたは何を疑っておるのだ」
その家臣が遂成に進言した。
「いま大王が賢人であることを疑う者は誰一人おりません。
遂成様は大功があるといっても、媚びへつらう者どもを引き連れて大王を廃そうとしていることは明らかでございます。このようなことは、たった1本の糸で万斤の重さを支えて引き倒すことと何の違いがありましょう。無理なことはどんな馬鹿者でも知っております。
もし遂成様が悔い改めて恭順の意を示せば、大王は遂成様の善なることをよくご存知なわけですから、遂成様に禅譲するお気持ちが起こってくるはずです。しかし、悔い改めなければ、災いが及ぶこと必定です」
遂成はこの直言を不快に思った。左右の者たちは直言を妬み、遂成に讒言した。
「遂成様は、大王が年老いたことで我が国が危うくなることを心配され、後々の方策を立てておられるだけでございます。それなのに、こやつはこんな妄言を吐きました。私どもは事が漏れて災いを招くことだけが心配です。殺して口を塞いでしまいましょう」
遂成はこの進言に従った。
【第6代】大祖大王(宮)[6-7]
