密友が王に言った。
「いま追っ手が目の前に迫っております。この状勢では脱出は不可能です。愚臣が決死の覚悟で防ぎますので、その間に大王はお逃げください」
密友はしんがりの決死隊を募り、敵軍に総攻撃をかけた。王はこの間に脱出し、山や谷に散っていた兵を集め、自衛軍を組織した。
王が言った。
「もしいま密友を助け出す者あらば、厚く褒賞を与えようぞ」
下部(高句麗五部のひとつ)の劉屋句が進み出て言った。
「愚臣が行って参りましょう」
劉屋句は戦場でうつ伏せになって倒れている密友を見つけ、背負って帰って来た。
王は自らのふとももに密友の頭を載せた。しばらくすると密友が息を吹き返した。
高句麗軍は敵に見つからないよう間道を回り道して、なんとか南沃沮に辿り着いたが、魏は追撃をやめなかった。
王は妙案が浮かばず、気持ちがくじけ、どうしたらよいのか分からなくなった。そのとき、東部の紐由が進み出て言った。
「事態は逼迫しておりますが、無駄死にはなりませぬ。臣に愚計がございます。食べ物と酒を携えて魏の陣中を見舞い、隙を見て敵将を刺し殺しまする。事がうまく運びましたら、奮撃してご勝利くださいませ」
王が頷いたので、紐由は偽って魏軍に投降して言った。
「寡君(東川王)は大国(魏)に逆らうという大罪を犯し、海浜まで逃亡しましたが、もはや身を寄せる場所もございません。これから陣前へ出向いて降服し、王の生死は御国におまかせしたいと思います。
そこで寡君はまず愚臣を使者として遣わし、不腆の供物を持参させました。ささやかな食物ですが、どうかお召し上がりください」
魏の将軍はこの話を聞いて投降を許した。紐由は食器の中に小刀を隠して進み出て、小刀を抜いて将軍の胸を突き刺し、自分も死んだ。
魏軍が乱れると、王は三方から襲撃した。混乱した魏軍は陣形を立て直すことができず、ついに楽浪の地から撤退した。
【第11代】東川王(優位居)[11-3]
