【第15代】美川王(乙弗)[15-2]

 このとき、国相の倉助利が王(烽上王)を廃そうとしていた。倉助利は、北部の祖弗や東部の蕭友たちを派遣して、山野で乙弗を捜索させた。
 沸流の川岸に来たとき、ひとりの男が舟上にいるのを見つけた。
 憔悴しきっている様子だが、動きが尋常でなかった。蕭友たちは乙弗ではないかと思い、近づいて拝礼して言った。
「いまの国王は無道で、国相と群臣は王を廃そうと密かに動いております。乙弗様は控えめで思いやりがあり慈悲深く、人を大切にされる方で、祖業を継ぐべき人物でございます。倉助利様が我々を遣わされ、こうして奉迎させた次第です」
 乙弗は疑った。
 「私はただの行商人で、王孫ではありません。別のところをお捜しください」
 蕭友たちが言った。
「今の王は人の心を失くして久しく、もとより君主としてふさわしくありません。そのため、群臣は乙弗様の即位を待ち望んでおります。どうかお疑いになりませぬようお願い申し上げます」
 ついに、蕭友たちは乙弗を奉じて帰京した。倉助利は喜んだが、王に知られてはまずいと考え、乙弗を鳥陌の南家に匿い、誰にも知らせなかった。

 秋9月、烽上王は侯山の北で田猟した。国相の倉助利も随行した。
 倉助利は家来たちに向かって言った。
「わしと同じ気持ちの者は私に習え」
 倉助利は葦の葉を冠に挿した。周りの者たちがみな挿したので、倉助利は皆の気持ちが同じであることを知り、ついに共に王を廃して別室に幽閉し、周囲を兵に守らせた。
 そして、王孫を迎え、印綬を奉って即位させた。
 冬10月、王都に黄色い霧が出て、天地四方を閉じ込めた。
 11月、王都で北西から大風が吹き、6日間、砂が飛び、石が転がった。
 12月、ほうき星が北東方に現れた。

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