ふたつの行李[2]

 家に着いたパクチョンガは、魚が新鮮なうちにさばいてしまおうと思いました。
 ひとつしかない包丁を取り出して、貴重な鯉をまな板にのせました。しかし、ウロコをとろうと包丁を握り直したとき、鯉の澄んだ目がなにかを訴えているように思えてきました。
「もしかして、さっき呼んでいたのはこの鯉か。でも、まさか、そんなはずはない。鯉がしゃべるわけないもんな。久々のごちそうだから興奮して頭がおかしくなっているんだ」
 パクチョンガは頭を落としてから調理しようと思い、包丁の刃をエラにあてました。そのときまた目と目が合いました。
「なんだか悲しそうな目をしてるなぁ」
 後ろめたい気持ちがこみ上げてきたパクチョンガは、赤い鯉をタライに戻し、自分に言い聞かせるようにつぶやきました。
「やっぱり泥を吐かせてから食べることにしよう。そうしたほうが臭みが抜けてうまいもんな」
 次の日、寝坊してしまったパクチョンガは、急いで朝ご飯を食べると後片付けもせずに山へ入りました。
 日暮れどき、薪を背負って帰ってきたパクチョンガは、家に入って驚きました。朝ご飯のお膳をそのままにして出かけたはずなのに、お膳がきれいになっているどころか、出来立てのおかずがお膳いっぱいに並べられていたからです。
「いったい誰が晩ご飯を作ってくれたんだろう。うちへ来る人なんかいるはずもないのに」
 パクチョンガは、不思議でなりませんでした。

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