監督:片渕須直
脚本: 片渕須直
原作:こうの史代『この世界の片隅に』
製作:真木太郎
製作総指揮:丸山正雄
出演:のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔、潘めぐみ、岩井七世、牛山茂、新谷真弓、栩野幸知
音楽:コトリンゴ
主題歌:コトリンゴ「みぎてのうた」
撮影:熊澤祐哉
編集:木村佳史子
制作会社:MAPPA
製作会社:「この世界の片隅に」製作委員会
【ストーリー】
昭和9年(1934年)1月、小学生の浦野すずは海苔を届けるお使いで中島本町に行く途中、人さらいに捕まり背中の籠に入れられてしまう。そこには運命の少年・周作がいた。二人は逃げることに成功するが、なんとも不思議な体験だった。昭和13年(1938年)2月、すずは同じ組の乱暴者・水原哲に鉛筆を取り上げられ床下に落とされてしまう。放課後、海難事故で兄を亡くし、荒れた家に帰りたくないという理由で課題の絵を描かず海辺に座り込んでいた哲を見つけたすずは、彼に代わって絵を描いてやる。
太平洋戦争末期の1943年(昭和18年)12月、18歳の浦野すずが草津の祖母の家で海苔すきの手伝いをしていると、突然縁談の知らせがくる。立っていた青年は、呉からやって来た北條周作だった。翌年2月、呉の北條家でささやかな結婚式が挙げられ、すずの新しい生活がはじまる。すずは周作とどこかで会った気がするが思い出せない。戦時下で物資が不足し、配給も乏しくなる一方、すずは持ち前のユーモアと生活の知恵で、次第に北條家やその近所の人々に受け入れられていく。 ある日、すずは闇市からの帰り道、迷い込んだ遊郭地で遊女の白木リンと知り合う。なかなか子供ができないことに悩むすずに、リンが「この世界に居場所はそうそう無うなりゃせん」という言葉をかける。しかし、さまざまな状況から彼女が周作の元恋人であったことに勘づき、複雑な思いを抱える。そんなすずの元に、ある日かつて互いに好意を抱いていた幼馴染の水原哲が訪れる。余計な気を回して水原と自分を引き合わせようとした周作に、すずは疑問を抱く。
帝国海軍の基地がある呉は、1945年(昭和20年)3月19日から頻繁に空襲を受けるようになる。同年6月22日の空襲で、通常爆弾に混ぜて投下されていた時限爆弾の爆発によって目の前で晴美を亡くし、自らも右手を失ってしまう。意識が戻ったすずは、晴美を守れなかったことを径子に責められる。同年7月1日の空襲では市街地が焼け野原となり、郊外にある北條家にも焼夷弾が落下する。見舞いにきた妹のすみは、江波のお祭りが行われる8月6日に広島の実家に帰ってくるように誘う。
8月6日の朝、病院の予約があるという理由で帰郷を遅らせたすずは、径子と和解することができ、北條家に残ることを決意する。すずは原爆(リトルボーイ)による被爆を免れるが、爆心地から20km離れた北條家にも閃光と衝撃波が襲いかかり、巨大な雲が広島を覆う。8月15日、ラジオで終戦の詔勅を聴いたすずは、怒りを覚えて家を飛び出すが、裏山の畑からふもとに太極旗がひるがえるのを見て、信じていたものの正体が暴力に過ぎなかったことに気づき、泣き崩れる。11月、すずは周作の案内で呉の市街地に出かけ、かつてリンのいた遊郭が空襲によって跡形もなく破壊されているのを目の当たりにする。12月、すずは呉の軍港で水原を見かけるが、話しかけることなく立ち去り、自分がこの世界でもう会えない人たちの記憶の器として在り続けるという決意をする。
翌年1月、すずはすみと再会する。すずの両親は既に亡くなっており、すみには原爆症の症状が出ていたが、すずは治らなければおかしいと彼女を励ました。すっかり焼け野原となった広島市内で、すずは周作にこの世界の片隅で自分を見つけてくれたことへの感謝を述べる。そこへ戦災孤児の少女が現れ、すずにすがりついて離れない。二人は少女を連れて呉の北條家に帰る。
第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞したというので、原作の漫画を読んでみました。絵柄はほのぼのと牧歌的なのに対し、内容はものすごくハードで、そのギャップに驚いた記憶があります。漫画版の『この世界の片隅に』は、2011年に日本テレビで、2018年にTBSでドラマ化されました。そして、満を持して、映画版が製作されました。当時はよく『はだしのゲン』と比較されていましたが、どちらも優れているので比較検討するのは見当違いなのではないかと、ボクは思っていました。2016年11月に小規模公開(アニメ映画によくあるパターン)されたのですが、口コミで評判が広がって異例のロングランとなり、1133日間連続上映という記録(いまだに日本一です)を打ち立てました。観客動員数は210万人で、興行収入は27億円を超えました。ボクはもうすぐ終了となる2019年末に映画館へ足を運びました。
片渕須直監督が作った映画版は、クラウドファインディングで製作資金を調達するところから始まりました。約4000万円が集まりましたが、絵コンテをそのまま映画にすると、上映時間150分製作費4億円の作品になってしまうため、絵コンテを削って上映時間110分製作費2億5000万円としました。映画の制作は旗淵監督のロケハンから始まりました。70年前のディテールにこだわり抜いた監督は、時代考証を綿密に行い、呉弁と広島弁の違いまで再現しました。
映画が大ヒットしたため、片淵監督は収益を使って、最初の絵コンテに入っていたシーンを復活させたディレクターズカット版を製作しました。168分という上映時間は、アニメ映画としては最長です。 『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』というタイトルで小規模公開され、Blu-rayディスクも発売されました。ボクは通常版とロング版の両方を買って何度も観ました。年に1回くらいは観たくなりますね。我が家では夏になると、本作と『火垂るの墓』を欠かさず鑑賞しています。