【第3代】大武神王(無恤)[3-6]

 左輔の乙豆智が言った。
「『小敵の強がりは大敵の擒』と申します。大王の軍事力を考えますに、漢兵の多さとは比較するまでもありません。計略を用いて討伐するのがよいかと存じます。力に頼っても勝ち目はございませぬ」
 王が尋ねた。
「計略で討つとは、どういうことだ」
 乙豆智が答えて言った。
「いま漢軍ははるばる遠征してきて戦闘を開始したところ。その先鋒は勢い盛んで、当方では対応のしようがありません。城門を閉ざして籠城し、漢軍が疲弊するのを待って討って出るのがよろしいかと存じます」
 王はその通りだとして、尉那巌城に入城し、数十日間立て籠った。しかし、漢軍は包囲を解かなかった。軍の力は尽き、兵は疲れ果てた。
 王が乙豆智に尋ねた。
「今の状勢では守り抜くことなど不可能だ。どうすればよいか」
 乙豆智が答えた。
「ここは岩山のため、漢は城内に水源がないと考え、包囲して我が軍が疲弊するのを待っているのでございます。ですから、池の鯉を氷草で包んで美酒とともに贈り届け、漢軍を労うのが得策かと存じます」
 王はこの進言に従い、漢軍に書簡を送って言った。
『寡人は愚昧で、御国より罪を得ました。帝の命を届けに来られた将軍様は、百万の軍を率い、辺境の地で夜露に晒されておりますが、厚意を示す術がございません。近臣の方々へ薄物(燗酒を作るための鍋)を提供させていただきます』

タイトルとURLをコピーしました