【第10代】山上王(延優)[10-2]

 翌日の早朝、王后は王の遺命だと嘘をつき、群臣に命じて延優を即位させた。
これを聞いた発歧はおおいに怒り、兵で王宮を包囲し、叫んで言った。
「兄が死んだらすぐ下の弟が継ぐ。それが礼というものだ。それなのに、おまえは長幼を無視して王位を簒奪した。これは大罪である。すみやかに出てこい。さもなければ妻妾を誅殺する」
 延優が門を閉ざして3日たっても、発歧に付き従う国人は皆無だった。このままでは妻子にまで禍が降りかかると思った発歧は、遼東郡へ奔走し、遼東太守の公孫度に告げて言った。
「某は高句麗王男武の同母弟です。男武には跡継ぎがいなかったのですが、弟の延優が兄嫁の王后と謀略を巡らし、まんまと即位してしまいました。これは天倫の義に反する行いです。
 どうにも怒りが収まらないのでこうして投降しました。伏してお願いいたします。3万の兵をお貸しください。延優の軍を撃破して高句麗を平定いたします」
 公孫度は、その願いを聞き入れた。
 延優は弟の罽須に兵を与え、防衛を命じた。
 後漢軍は大敗した。
 罽須は自らすすんで先鋒となり、逃げる発歧軍を追奔逐北した。
 発歧が罽須に告げて言った。
「おまえは年老いた兄を殺すというのか」
 罽須は兄弟に対して無慈悲になることができず、止めを刺そうとしなかった。
 罽須が発歧に言った。
「延優があなたに譲らなかった行為は義に反しますが、一時の憤懣から宗国を滅ぼそうとするのは、いったいどういう了見ですか。寿命を終えた後、どの面を下げてご先祖様たちに拝謁するつもりですか」
 発歧は罽須の言葉を聞いて慚愧の念に堪えず、裴川まで逃げて自らの首をはねた。
 罽須は嘆き悲しみ、発歧を草葬して帰国した。

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