【第10代】山上王(延優)[10-3]

 王は複雑な気持ちで罽須を王宮に招いた。
 王は罽須に家人の礼で会い、こう言った。
「発歧は異国に兵を求めて祖国に侵攻した。その罪はあまりにも大きい。おぬしは賊軍に勝ったが、発歧を許して殺さなかった。
 それでじゅうぶんなのに、あやつが自死すると慟哭して悲しんだ。それは寡人の無道を言おうとしているのか?」
 罽須は不満げな表情を浮かべ、涙を流しながら答えて言った。
「愚臣はいま一言だけ申し上げて死にとうございます」
 王が言った。
「いったい何が言いたいんだ」
 罽須が言った。
「王后様は先王の遺命により大王を立てられました。しかし、大王は王位を譲る礼(形式的に即位を数度辞退する儀礼)をなさいませんでした。これでは兄弟が共に相親しむ義が行われるはずもございません。
 愚臣は大王の美徳を示さんがために、発歧の屍を仮葬したのです。このことがどうして大王のお怒りに繋がるのか、愚臣には分かりません。もし大王が理性で感情を抑えて発歧の葬儀を執り行えば、義に欠けた王だなどと思う民はいないはずです。
 愚臣が申し上げたかったのはこれだけでございます。言い終わったら死ぬと申しましたが、まだ生きております。どうか役人に引き渡して愚臣を誅殺してください」
 王はこの言葉を聞いて、身を乗り出して座り直し、表情を和らげて慰め諭して言った。
「寡人は愚か者でいろいろ惑わされる。今おぬしの話を聞いて己の過ちがよく分かった。そう責めないでくれ」
 王子である罽須が王に礼拝し、王も礼拝した。二人は互いに喜び合い、この場は終わった。

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