ふたつの行李[3]

 しかし、次の日も、また次の日も、そのまた次の日も、帰ってくると晩ご飯が用意されているのでした。誰が作ってくれるのか気になったパクチョンガは、出かけるふりをして裏庭にそっと隠れ、家の中を見張ることにしました。
 夕方までじっとして待っていましたが、訪ねてくる者はいません。
「今日は誰も来ないみたいだな」
 そろそろ家に入ろうと思って腰を上げたとき、台所から光が漏れてきました。近づいて戸のすき間から中を覗くと、その光は赤い鯉が入っているタライから出ていました。
「これは、いったいどうしたことだ」
 光はさらに輝きを増し、タライの中から美しい娘が現れました。タライから出た娘は、おひつに残っていたご飯を食べて食器をきれいに洗うと、夕食の仕度にとりかかりました。
「そうか、あの娘がご飯を作ってくれてたんだ」
 娘がご飯を用意している様子を眺めているうち、パクチョンガの心のなかに娘を愛しく思う気持ちが芽生えてきました。
「あの子といっしょにいたい。いっしょに暮らしたい。この機会を逃したら二度と嫁さんをもらえないに違いない」
 パクチョンガは音を立てないようにそっと近づき、うしろから娘の両手を握りました。  「わっ!」と叫んだ娘が振り返ると、今度は背中に両腕をまわしてきつく抱きしめました。そして、声を張り上げて懇願しました。
「娘さん、どうかオラといっしょに暮らしてやってください」
 娘はパクチョンガの懐でうつむいたまま返事をしません。それでもパクチョンガは同じ言葉を繰り返しました。
「お願いです。お願いです。お願いですから、オラといっしょに暮らしてやってください」

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