万葉集は韓国語で読めるか

 韓国で国は『ナラ』(나라)という。8世紀、日本の都は奈良といった。だから、日本は韓国人の祖先が渡海して建てた国である。
 いまでもこんなトンデモ説を信じている韓国人が少なくない。中途半端に日本の知識がある韓国人に多い。それに対するボクの説明はいつも同じだ。「8世紀の韓国(新羅)では国をなんと発音したの?」。「ナラに決まってるでしょ!」と答えた人には何も説明しない。どんな説明をしても納得してくれないからだ。
 日本には『古事記』や『万葉集』があるので、7世紀から8世紀の発音をある程度復元することができる。平安時代の謎々に「父には会わぬが母には二度会う」というのがある。答えは唇。母は「ファファ」と発音されていたからだ。また、卑弥呼は3世紀には「ピ・ミィ・ポー」と発音されていたらしい(中国語の上古音からの復元。ただ、これはこれで問題がある)。
 一方、韓国には古代韓国語の発音を復元するための文字史料がほとんど残っていない。日本語と韓国語の関係がはっきりしないのも、古代韓国語の史料がほとんどないからだ。 韓国最古の歴史書である『三国史記』と『三国遺事』は中国語(漢文)で書かれている。『古事記』や『万葉集』のような自国文字による文学が韓国で発達することはなかった。
 『郷歌』という古代歌謡が二十数首残っているが、完全な1字1音ではないため発音の復元はかなり難しい(高麗時代から補助記号『口訣』が用いられたので中世以降の発音はある程度復元可能)。
 そのため、三国時代の韓国(新羅、百済、高句麗)でどのような言葉が話されていたのかはほとんど分かっていない。
 『万葉集』を中世以降の韓国語音を使ってダジャレ感覚で読み解くことはできるが、だからといって『万葉集』が古代韓国語で記録された証拠にはならない。もしかしたら古代韓国語で書かれたかもしれないが、それを学術的に証明することは今のところ不可能なのだ。

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