高級官僚が召使いの小僧に言った。
「これは皇帝から頂いた大切な冠じゃ。よく磨いておくのじゃぞ」
小僧はいつものように返事をした。
「へ~い、わかりやしたー!」
主人の冠を磨きおわった小僧は、牛の角に冠をひっかけて乾かした。
しばらくして、牛に草を食べさせるため、街外れの牧草地に向かった。
大通りに出ると、人々が牛に向かって土下座をしだした。
不思議に思った小僧が、頭を地面にこすりつけている役人に尋ねた。
「どうして牛なんかに頭を下げているんですか?」
役人がひれ伏したまま答えた。
「冠を見たら、とにかく頭を下げるんだ。そうすれば問題が起きることはない」
ある考えがひらめいた小僧は、冠を自分の頭に載せて歩いてみた。
すると、人々は小僧に向かって土下座を始めた。
小僧が頷きながら言った。
「なぁんだ~。偉いのはご主人様じゃなくて、この冠なんだ」
人というのは権威に弱いものなのだ。