ある将軍が異民族を征伐するために出兵した。
万里の長城を越え、さらに北進した。
自軍の兵が三十万なのに対し、敵軍はたった二万だった。
将軍は自軍の勝利を確信した。
ところが、圧倒的な軍事力だったにもかかわらず、敵軍を殲滅することができなかった。それどころか、自軍の兵がちりぢりとなり、前線からの後退を余儀なくされた。
その後、敵軍に追い詰められ、将軍は死を覚悟した。
「もはやこれまで」
そのとき、空から神様が舞い降りてきて敵を追い払ってくれた。
九死に一生を得た将軍は、うれし涙を流して神様に感謝した。
「本当にありがとうございました。おかげで命拾いしました。このご恩は一生忘れません」
神様が頭を掻きながら言った。
「いやぁ~、なになに。気にすることはないぞ」
将軍が尋ねた。
「お名前をうかがってもよろしいでしょうか。これから毎日、お祭りさせていただきます」
神様はあいかわらず頭を掻いている。
「あぁ、いいよ。ワシは的の神じゃ」
将軍が聞き返す。
「あの~、的というと、弓矢のマトの的でございますか?」
神様が目をこすりながら答える。
「そうじゃよ。日頃、矢に刺されてばかりいる的の神じゃ」
不思議に思った将軍がさらに尋ねる。
「どうして的の神様が私を助けてくださったのですか?」
神様が長いアゴヒゲをなでながら答える。
「おぬしは稽古のときから一度もワシを傷つけることがなかった。それで常々礼をせねばと思っておったんじゃ」
助けられた訳
