小さな息子の夜泣きを心配する庄屋がいた。
街に優秀な小児科医がいるという噂を聞いた庄屋は、みずから街へ出かけて行き、その医者を捜し出した。
そして、大金を積んで村まで往診に来てもらった。
医者は赤ん坊の脈をはかり、目と舌の色を確かめて言った。
「大丈夫ですよ。ただの夜泣きです。すぐに効く薬を処方しましょう」
医者は弟子に薬を調合させて赤ん坊に飲ませた。
「これで安心です。念のため一晩様子を見ましょう」
深夜、医者は弟子に赤ん坊の様子を見に行かせた。
しばらくして、弟子が戻ってきた。
「赤ちゃんは泣いておりませんでした」
医者はうなづきながら言った。
「それはよかった。さぁ、ワシたちも寝るとしよう」
弟子がかぶりを振った。
「そのかわり、赤ちゃんのお母さんが泣いています」
血の気の引いた弟子が医者の袖を引っ張って言った。
「お師匠様、すぐに帰りましょう。このままでは何をされるかわかりません」
しかし、医師は動揺することもなく平然と言った。
「お母上に、気を静める薬を調合して差し上げなさい」
「わ、わかりました」
「それから、庄屋様にも同じ薬を差し上げなさい」
「わかりました」
「そうそう。召使いたちにも薬がいるかどうか聞いてみておくれ」
古今東西、今昔を問わず、ヤブ医者ほど薬を出したがるものなのだ。