居留守

借金取りが借主の家を訪れた。
「お~い、いるかい。集金に来たよ~」
しかし、何度声をかけても返事がない。
また居留守を使われていると思った借金取りは、そっと家に入った。
玄関から中の様子をうかがうと、障子の向こうに人の気配がした。
「居留守を使ってもダメだよ。そこにいることは分ってんだから、はやく出てきてお金を返してくれ!」
「わたしは留守番です。本人は旅に出てしばらく帰ってきません」
「その声は本人じゃないか。バカなマネしてないで、とっとと出て来い!」
「いいえ、間違いなく留守番です」
埒が明かないので、借金取りは障子に指で穴を開けて、部屋の中を覗いた。
すると、借主がお茶を飲みながら本を読んでいた。
「ほら、やっぱりおまえさんじゃないか」
そう言って、借金取りは障子を開けた。
借金取りと目があった借主が怒って言った。
「なんて失礼なヤツだ。器物破損で訴えてやる!」
「わかったよ。直すよ。そのかわり直し終わったら金を返してもらうぞ」
「ええ、直してくれたら、ちゃんと返しますよ」
翌日、借金取りは修繕作業が終ったことを確かめてから、借主の家を再び訪ねた。
「お~い、集金に来たぞ」
今度はすぐ声が返ってきた。
「わたしは留守番です。本人は旅に出てしばらく帰ってきません」

居留守を使うような男を信じてはいけない。

タイトルとURLをコピーしました