貿易船が海で難破してしまった。
暗礁に乗り上げてしまい、船を動かすことができなくなった。
一ヵ月後、水も食糧も尽き、乗組員の多くが餓死しかけていた。
そこへ一艘の船が通りかかった。
船員たちは最後の力を振り絞って声を出した。
「お~い、助けてくれ~」
声が届いたようで、船から小舟が降ろされ、貿易船へ向かってやってきた。
その小舟には僧侶が五人乗っていた。
僧侶のひとりが尋ねた。
「いったい、どうされたのですか?」
話す元気が残っている船員が答えた。
「嵐で難破してしまったんです。これで助かりました。ありがとうございます」
「我々は修行先から本山へ帰る途中です。これもご縁ですから念仏を唱えてあげましょう」
そう言うと、数珠を鳴らしながら経文を唱えはじめた。
船員が拝むように言った。
「お経は後でいいんです。とりあえず食べ物を分けてください。みんな死にそうなんです」
「南無阿弥陀仏」
「もちろんタダとは言いません。あなた方の食糧を船の宝物と交換してください」
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」
「金一斤と米一升でどうでしょう。後生ですから食べ物を分けてください」
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」
とうとう船員が叫んだ。
「こんないい条件なんてありえないぞ。坊主のくせに足元を見やがって、畜生!」
しばらくして、ひとりの僧侶が合掌して言った。
「あなたたちが餓死すれば、船の宝物はすべて我々のものです。これで本堂を建て直すことができます。これも御仏の御加護です。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」
御仏の御加護
