出稼ぎ仕事で生きている男がいた。
雪が解ける初春に故郷を出て年末に帰郷するという生活を送っていた。
ある年、男は貴族のお屋敷で下働きをした。
暇をもらって帰郷する日、男は主人にお願いをした。
「こちらの庭で見た満開の桜がどうしても忘れられません。実家の庭に植えたいので一枝いただいてもいいでしょうか?」
「それはかまわんが、おまえの故郷にも桜の木はいっぱいあるぞ。何度も行ったことがあるから知っておる。この桜が珍種というわけでもないのに、どうして持って帰りたいんだい?」
「わたしの故郷の桜には葉も花もついていないのでございます」
主人は大笑いして言った。
「それはおまえが冬だけ故郷にいるからじゃよ」
故郷の桜
