ウィキペディアに『未完の文学作品』というカテゴリーがあります。このリストを眺めていると、意外と未完小説って多いんだなぁ、と思います。100冊以上はありそうです。でも、よく考えてみたら、作家なんてお釈迦様が迎えに来るまで書き続けているんだから、当たり前といえば当たり前ですね。さて、ボク的に気になっている未完小説が何冊かあるのですが、その中で結末についてずっと考えているのが、『明暗』と『グイン・サーガ』です。
『明暗』はもう10回以上読んだでしょうか。解説本によると、漱石はこの作品で“則天去私”(自然に従い私事に囚われないこと)の境地を表現しようとしていたらしい。この小説の結末が気になった人は多かったようで、水村美苗氏が続編となる『續明暗』(ちくま文庫で読める)を上梓して1990年に藝術選奨新人賞を受賞しています。他にも、田中文子、永井愛、粂川光樹等が完結編を発表していますが、個人的には納得がいっていません。本作は未完の時点ですでに最長の作品であり、漱石が男女の三角関係の延長でストーリーを締めようとしていたとは到底考えられません。というわけで、今でもいろいろ考えてはいるんですが、これが実に難しい! まぁ、当人が逝去していて当然正解はないわけなので、皆さんも頭の体操で考えてみたらいかがでしょうか。
もう一つの作品は、栗本薫の『グイン・サーガ』です。文庫本の書き下ろしシリーズという当時としては画期的な企画で、ボクも第1巻『豹頭の仮面』から手に取って読みました。シリーズが始まる時点で、100巻完結、最終巻のタイトル『豹頭王の花嫁』ということが公表されました。しかし、話が広がりすぎて100巻では全然収まらず、いったい何巻までいくんだと思いましたし、ダークファンタジー路線から宝塚歌劇団路線へ方向変換してしまったので、途中で何度もやめよう(もう最終巻だけ読めばいいじゃない?)としましたが、結局、惰性で読み続けました。
ところが驚いたことに、我が敬愛する栗本さんが膵臓癌で夭逝してしまい、『グイン・サーガ』は未完で終わってしまいました。彼女が執筆したのは130巻までで、続きに関しては簡単なメモ書きしか残っていなかったそうです。続編は本人の希望により別の作家が書き続けていますが、はっきり言って面白くないです。それで、ボクが今あれこれ考えているのは、豹頭王の花嫁っていったい誰? ということなんです。何人か有力な候補がいるのですが、誰が花嫁でもおかしくない感じがします。というか、ストーリーが全力で広がってしまっているので、花嫁役さえ決めてしまえば、創作側としてはそこに収まるように方向付けすればOKなんだと思います。
話は変わりますが、未完といっても実にさまざまなパターンがあって、芥川龍之介の『邪宗門』は未完は未完なのだけれども、結末は各種の草稿によってほぼ分かっていて、執筆に行き詰まっているうちに当人が服毒自殺してしまったというわけです。埴谷雄高の『死靈』なんて、当時から誰も完結するとは思っていませんでした(少なくなくともボクと友人たちはそうでした)。実際、87年も生きたのに、全12章のうち9章まで書いたところで執筆を放棄してしまい、周りの説得で続編を細々と書き続けはしましたが、結局、尻切れトンボで終わってしまいました。今の若い人には分からないと思いますが、当時、『死靈』は文系青年の必読書だったんですよね~。ボク的には面白くもなんともなかったんですが、しょうがないから付き合いで読んでいました。興味がある方は講談社学芸文庫で読んでみてください。