街の広場で、ふたりの男が言い争いをしていた。
「おまえには理性というものがない。そんな危いヤツとは付き合ってられないね」
「おまえこそ、心が内にばかり向いていて、周りへの気遣いがまったくないじゃないか」
そこへ弟子を連れた儒学の先生が通りかかった。
先生が弟子たちに言った。
「あのふたりをご覧なさい。あれが本当の哲学論争じゃ」
一番弟子が尋ねた。
「ケンカにしか見えませんが、何を話しているんですか?」
先生が答えた。
「《理》は朱子学の、《心》は陽明学の根本原理じゃ。そんなこともわからんのか?」
二番弟子が尋ねた。
「どうすれば分かるようになりますか?」
先生が答えた。
「ワシのように学問を極めれば、自然に分かるようになる」
三番弟子が尋ねた。
「どうしてケンカごしなんでしょう?」
先生が答えた。
「真剣に議論している証拠じゃ」
四番弟子が尋ねた。
「ところで先生、朱子学と陽明学の違いは何なのでしょうか?」
先生が答えた。
「ケンカしているふたりに聞いてきなさい」
本物の哲学論争
