漢陽・漢城・京城・首爾はみなソウル

 都という意味の『ソウル』(Seoul)は、純粋韓国語のため漢字がない。語源ははっきりしないが、新羅語のソボルが転訛したという説が有力だ。
 新羅から高麗の時代まで、一時期を除き『漢陽』と呼ばれたが、1392年、朝鮮初代王の李成桂が『漢城』と改名し、朝鮮時代はずっとこの名称が使われた。
 1910~1945年の日本統治時代、ソウルは『京城』と呼ばれていたが、この名称は日本政府が作って強制したものではない(勘違いしている韓国人が多い)。都の住民は昔から京城と言っていた。ソウルとも呼ばれていたが、それは単に都という意味で使用されたに過ぎない。
 似たような例は中国にもある。明清時代の首都は『北京』だったが、生粋の北京っ子は『北平』と呼んでいた。
 日本降伏後、ソウルは米軍の統制下に置かれ、翌1946年『ソウル市憲章』が公布され、『京城府』から『ソウル市』(Seoul City/서울시)に改名された。どうして首都名がソウルになったのかはよくわからないが、米軍の資料では一貫して「Seoul」が使われているので、1945年の段階で首都名をソウルにする意志があったと思われる。
 韓国の首都名が純粋韓国語になって困ったのが中国だ。中国には漢字表記しかない。適当な漢字を当てて音訳表記することも可能だったが、中国では『漢城』(ハンチョン/hancheng)をそのまま使うことにした。韓国は変えてほしかったかもしれないが、建国以来ずっと敵国どうしで、中韓の国交が回復したのは1992年のこと。
 『漢城』にはどうしても古臭いイメージがつきまとう。中国を宗主国として崇めていた時代の名称だというのも韓国人としてはひっかかる。
 そこでソウル市は、自らの漢字名を考えた。それが『首尔』(正体字は『首爾』)。発音は「ショウ・アル」。速く発音すれば「ショゥル」になり、ソウルと聞こえなくもない。首都の首も入っている。
 2005年、ソウル市は、ソウルの中国語表記を『首尔』と正式に定め、すべての中国語印刷物で漢城を首尔に改めた。公布から20年以上過ぎた現在、『首尔』は中国でかなり普及している。報道機関はほぼ例外なく『首尔』を使っているし、ふつうの中国人も多くが『首尔』と言っている。
 一方、韓国人は、中国の首都北京を『ブッギョン』とも『ベイジン』とも言う。ブッギョンは北京を韓国語読みした言い方で昔から使われている。ベイジンは北京の中国語読みを音訳した言い方で、こちらもよく耳にする。日本の首都も同様で「トンギョン」とも言うし「トーキョー」とも言う。

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