犬を食するということ

最近は欧米から大批判を浴びていますが、アジアで犬を食することは至極当たり前のことでした。もう10年以上食べていませんが、実際にボクが犬を食べた国は、中国とベトナムと韓国です。一応言い訳しておきますが、食べたくて食べたことは一度もありません。では、何故食べたのか? 犬鍋を囲んで酒を飲まないと、仲良くなれなかったからです。ベトナムはそうでもありませんでしたが、中国と韓国ではしょっちゅう連れていかれました.外国人が珍しかった時代でしたので、先方もかなり気を遣ったのでしょう。詳しい文化的背景については、また別の機会に書き込みたいと思うのですが、本欄ではボクが実際に体験した事実をメインに説明させていただきます。

中国の犬食は、熱帯・亜熱帯の南方が中心です。北京や上海で犬肉料理を提供している飲食店に出会ったことは一度もありません。ただ、厳寒の東北地方は例外です。新宿の大久保エリアがチャイナタウン状態だった頃の話ですが、冷凍の犬肉をキープしているレストランが何軒かあって、朝鮮族の留学生たち(例外なく吉林省延辺朝鮮族自治区出身。母語が朝鮮語だから日本語はペラペラ)と犬料理を食べに行っていました。比較的大きな街では大型犬を専用の施設で養殖していました。犬肉は大変貴重で常備されてはいません。店先に尻尾の付いた犬のお尻が置かれていると、犬が入荷したという合図です。食用の大型犬が生きたまま連れてこられ、店で解体されます。

調理法は鍋一択です。ちなみに中国語で犬鍋は『狗鍋』(ゴウロウ)と言います。テーブルで高純度の焼酎を飲んでいると、ぶつ切りにされた犬肉の入った真っ赤な鍋が出てきます。見た目は四川の火鍋にそっくりです。具は少なく、唐辛子や山椒などの香辛料が山のように入っています。犬肉は決して美味しいものではありません。鍋に入れる前に軽く下茹でするのですが、一度、鍋に入れる前の肉を味見させてもらえる機会がありました。臭くて食べられたものではありませんでした。“犬肉は大変貴重な肉である”→“滋養強壮に優れている”→“酒の肴として最高である”→“接待時に犬鍋は必須である”。現地の人たちの話を総合すると、だいたいこんな感じでした。

最近は愛玩動物として都会でも飼われている犬ですが、以前は田舎でしか見かけませんでした。放し飼いにされていて、タスクは何もありません。名前すらありません。ではどうして存在しているかというと、ご想像のとおり、祝祭時や来賓訪問時に鍋として饗されるのです。インドにも野良犬はたくさんいますが、インドに犬を食べる習慣はありません。

次に韓国ですが、犬食が大変盛んなところでした。過去形になっているのは、若者を中心として犬食文化に対する批判が高まり、犬を食べる習慣がほぼなくなってしまったからです。2024年1月9日の国会で、食用犬の飼育・流通・販売を禁止する『犬食禁止法』が成立し、2027年に施行されます。もともと犬を食べるのは酒飲みの中高年男性なので、多くの人にとって犬を食べなくても、日常生活に何の問題もないなんです。という訳で、ここからは犬食が一般的だった頃の話をしてみたいと思います。

犬肉は韓国全土で食されていましたが、全人口の半数が集まるソウルには、犬肉専門店が至る所にありました。特に飲み屋街に集中していた印象があります。ソウル郊外の京畿道城南には巨大な犬肉専用市場(“モランシジャン”牡丹市場)があり、ボクも一度だけ訪れました。外国人が物見遊山で見学するので、市場関係者たちはとても嫌がっていました。

中国と違い、韓国では犬肉を使ったさまざまな料理があります。犬肉は韓国語で“ケコギ”と言います。“ケ”は犬、“コギ”は肉を意味します。北朝鮮では“タンコギ”と呼んでいます。鍋にして食べるのが基本ですが、茹でたり焼いたりとさまざまな調理法があります。犬肉を焼酎に漬け込んだ“ケソジュ”(ソジュ焼酎という意味)があるくらいなので、レパートリーは豊富です。

とは言え、メインはやはり犬鍋です。“ポシンタン”と言います。漢字で書くと『補身湯』。読んで字の如く、滋養強壮に優れた栄養スープ鍋で、具がたくさん入っていて中国の狗鍋ほど辛くありません。大勢で訪れる機会も多いのですが、ボクが知る限り女性や若者は犬肉を食べません。他の料理を注文するか、専門店の場合は出前を頼んで『サムゲタン』(参鶏湯)などを食べます。韓国は典型的な男尊女卑の国なので、目上のオジサンに誘われたら、悲しいかな無碍に断ることはできないんですね。

蛇足ですが、日本の犬食についても軽く触れさせてください。日本の各種史料には、決して多くはないけれども、犬食に関する記述が散見されます。これはボクが祖父や親戚から直接聞いた話なのですが、第二次世界大戦中、愛知県では犬を潰して食べることがあったそうです。最後に、これはボクの個人的な考えなのですが、犬食と儒教には何か関係があるような気がします。

 

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