人里へ狩りに出ていた兄虎が、うなだれて帰ってきた。
洞窟の入口まで迎えに出ていた弟虎が尋ねた。
「兄上、どうされたのですか?」
兄虎が面倒くさそうに答えた。
「人を食べることができなかったから、ハラペコで全然元気が出ないんだよ」
弟虎がさらに尋ねた。
「人里に人間がいなかったのですか?」
「いることはいたさ」
「じゃあ、どうして食べなかったのですか?」
兄虎が説明を始めた。
「はじめに見つけた坊さんは、生臭そうで食べる気がしなかった」
「そうですね。近頃はなまぐさ坊主ばかりですからね」
「つぎに見つけた役人は、骨の髄から腐ってそうで食べる気がしなかった」
「そうですね。役人は煮ても焼いても喰えないって言いますからね」
「最後に試験会場に向かっている受験生たちを見つけたが、硬くて不味いことが分かっているから食べなかった」
弟虎が不思議そうに尋ねた。
「でも、受験生は若いから、軟らかくて美味しいはずですが」
兄虎は洞窟の天井を見上げて言った。
「近頃は白いヒゲをはやした受験生ばかりだ。食べたら歯を痛めてしまうよ」
【解説】
中近世の中国では、科挙の受験に年齢制限がなかったため、家門の栄華を守るために五十、六十になっても受験する者が絶えなかった。