天の川の東に美しい娘が暮らしていました。天帝の娘で機を織ることをなりわいとし、来る日も来る日もカッタンコットンと絹糸を織る日々を送っていました。
彼女が織る布は天界でも随一のもので、その評判を聞きつけて注文する者が後を絶ちませんでした。人々は尊敬の念を込めて彼女を織女と呼びました。
織女はもともと美しい娘だったのですが、仕事に追われるあまり、きれいな衣装を身にまとうことも紅で唇を飾ることもありませんでした。
そんな愛娘の様子を見かねた天帝は、織女に夫を見つけてあげることにし、天の川の西に住む牛飼いの牽牛と結婚させました。
織女の生活は結婚を機に一変しました。織女は牽牛から片時も離れようとせず機を織ることをやめてしまいました。
天帝がため息をついて言いました。
「なんてことだ。寂しいだろうと思って夫婦にさせたが機織をしないのでは本末転倒だ。なんとかしなければ周りの者に示しがつかない」
天帝はあれこれ考えた末、二人が暮らしている家を訪ねて自分の娘を説得することにしました。
「愛娘よ、おまえはどうして機を織らないんだい。機織がおまえの使命なのだよ。はやく天の川の西に帰って美しい絹を織っておくれ」
しかし、いままで一度として父の命令に背いたことがなかった娘が、はじめて口ごたえをしました。
「お父様、どうかお許しください。わたくしにはもう機を織ることなどできません。牽牛様のお世話をすることが最上の幸せなのです」
織女と牽牛[上]
