天帝は困りきった表情をしました。
「そうは言っても皆がおまえの布を待っておるんだ。このままでは天上人が着る衣装が尽きてしまう。お願いだから織っておくれ。このとおりだ」
天帝は娘にはじめて頭を下げましたが、娘を翻意させることはできませんでした。
「嫌でございます。いっときたりといえども牽牛様と離れることなどできません。お願いですからこのままお帰りください」
娘の考えを変えることができないと悟った天帝は、大声で叱りつけて命じました。
「いますぐ天の川の西に戻って機織をせよ。これは天帝としての命令だ。今後は年に一度だけ会うことを許すが、そのほかの日は決して会ってはならぬぞ」
こうして、織女と牽牛は七月七日にだけ会えることになりました。
織女は牽牛と会うことだけを楽しみにして、毎日毎日機を織りつづけましたが、雨が降って天の川の水が増えると川を渡ることができず、二人は会うことができませんでした。 あいにくこの時期は雨が多く、二人が会えるのは三年に一度程度でした。
会えぬ年が続いたため、織女は病に伏せるようになり、美しい絹を作ることができなくなりました。
哀れな娘の姿を見かねた天帝が、カササギに命じました。
「七月七日、おまえは橋になりなさい。そして、娘が西の岸から東の岸へ渡れるようにしておくれ」
天帝のはからいで毎年牽牛に会えるようになった織女は、元気を取り戻し今でもきれいな布を織りつづけているということです。
(中国神話)