証文の書き換え

ある男が四両を借金し、一年後に六両を返す約束をした。
一年後、男が貸主に言った。
「まだ返せないから、四両を追い貸しして十両の証文にしてくれ。一年後に十五両返すから」
「しかたがないですね」
貸主は了承して、十両の借用書を作った。
その一年後、男が貸主に言った。
「まだ返せないから、五両を追い貸しして二十両の証文にしてくれ。一年後に三十両返すから」
「しかたがないですね」
貸主は了承して、三十両の借用書を作った。
またその一年後、男が貸主に言った。
「まだ返せないから、十両を追い貸しして四十両の証文にしてくれ。一年後に六十両返すから」
「しかたがないですね」
貸主は了承して、六十両の借用書を作った。
またまたその一年後、男が貸主に言った。
「まだ返せないから、十両を追い貸しして七十両の証文にしてくれ。一年後に百両返すから」
貸主が申し訳なさそうに言った。
「スミマセン。もうこれ以上は無理です」
男が怒鳴った。
「どうして、そんな嫌そうな顔をするんだ! 今まで証文の書き換えに気持ちよく応じてきたじゃないか。今回もさっさと書き換えようぜ。なっ、なっ?」
そう言って、貸主の肩を叩いた。
しかし、貸主はきっぱりと断った。
すると、男がなだめすかすように言った。
「よく考えてみろよ。はじめに四両貸して、それがいまじゃぁ六十両だ。それが今度は百両になるんだぞ。こんなにうまい話はないじゃないか」

盗人に追い銭とは、まさにこのことである。

タイトルとURLをコピーしました