読めなくてもいい手紙

あるところに商売が成功して金持ちになった男が住んでいた。
しかし、男は貧農の出で字の読み書きができなかった。
ある日、金を貸した家から召使いがやって来た。
召使いは返済期日の延長を依頼する主人の手紙を持っていた。
男は手紙を逆さまに持って読んだふりをした。
召使いがクスクス笑うと、男が怒鳴った。
「オレはおまえに見せるために持ってるんだ。ほらっ、はやく読んでみろ!」
利にさとい人は屁理屈が得意である。
別の日、近所に住む友人と世間話をしていたところ、また召使いが手紙を持ってやってきた。
男はいつものように読むふりをした。
その友人は男が読み書きできないことを知っていたが、いつもさげすまれていたので、お返しをしてやろうと思い、嫌味を込めて言った。
「それで、なんて書いてあるんだい?」
男は平然と答えた。
「金を貸してくれたお礼にご馳走したいってよ」
それを聞いた召使いが首を左右に振った。
「違います、違います。借金の返済をもう少し待ってほしいとのことです」
男は召使いに向かって言った。
「どうせ、借金の返済を延ばしてもらうためにオレを接待するんだろう? だから、間違ってやしないよ」
上手に商いをする人はトンチもうまい。
また別の日、店先で男が客と話していると、いつもの召使いが走りこんできた。
「いったい、どうしたんだ。やけに慌ててるじゃねえか」
召使いが息を切らせながら言った。
「とにかく、これをお読みください」
召使いは懐から手紙を出して男に手渡した。
いつもは番頭を呼んで読ませるのだが、そのときは目の前に客がいたので、男は読むふりをした。
そして、思いつきで叫んだ。
「用件はわかった。すぐ支度して行くからと主人に伝えてくれ!」
召使が返事をした。
「あいっ、わかりやした。主人にそう伝えます」
そう言い終るやいなや、飛ぶように出ていった。
あてずっぽうが本当だった男は、自分で自分に驚いた。
金持ちになるような人は悪運が強い。

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