避暑に最適な場所

蒸し暑い夏の日、役所に代官が集まって世間話をしていた。
ひとりが言った。
「こう暑くてはかなわん。どこか涼しいところはないかのう」
もうひとりが言った。
「郊外のお寺なんかどうじゃ。森に囲まれて清涼感いっぱいだと思うが」
別のひとりが言った。
「山奥の別荘がよいぞ。清流があって気分もすぐれる」
また別のひとりが言った。
「湖のほとりで涼むのがよいのではないか? どうじゃ、いまからみんなで行ってみようじゃないか」
このとき、側に控えていた古株の召使いが大きな声で言った。
「ここがいちばん涼しいに決まっております」
長老格の代官が尋ねた。
「風も吹かず木陰もないのに、どうしてじゃ? ここは暑くてたまらんと言っておるではないか!」
召使いは代官たちをにらみつけるように見まわした。
「古来より《上に立つ者は太陽のごとく民を照らす》と言いますが、ここには太陽がひとつもありません。だから、涼しいに決まっているのです。それどころか、ここへ来ると背筋がぞっとすると下々の者たちが申しております」

日頃の不正を指摘された代官たちには返す言葉がなかった。

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