麺を売って生計を立てている男が四十を過ぎてから結婚した。
次の年には息子を授かった。
良い名前が思い浮かばなかったので、顔なじみの役人につけてもらうことにした。
「はじめての子だし、なんでも一番になることを願って、金太郎なんてどうだい」
しかし、長男は流行り病で死んでしまった。
数年後、男にまた息子ができた。
役人が言った。
「金はよくなかったかな。それなら、銀次郎だ」
しかし、今度は不慮の事故で死んでしまった。
数年後、男にまた息子ができた。
男は役人に言った。
「金銀などというありがたすぎる名前をつけたのがよくなかったんだと思うんです。今度は貧相で長生きしそうな縁起の悪い名前をつけてください」
しばらくして、役人が口を開いた。
「おい、ピッタリの名前が浮かんだぞ!」
「どんな名前ですか?」
「先生だ、先生。どうだ?」
「どうだって言われても困りますよ。どうして先生という名前なら長生きするんですか?」
「よく聞けよ。先生ってのはなぁ、読み書きや屁理屈は得意だが、安月給で生活はギリギリ。子供に何かあれば、親から袋叩き。世間から敬われることもない」
「そうなんですか?」
「ああ、そうだよ。だから、これほど貧乏くさくて縁起の悪い名前はねえよ」
長生きする名前
