中国では古来より日食を不吉なものと考え、さまざまな厄除けを行ってきた。
学者肌の官僚が友人たちに尋ねた。
「あなたたちの故郷では日食のとき、陽(太陽)を守るために何をしていますか?」
左隣にいた友人が答えた。
「役所の者たちは正装し、将兵はみな武装して太鼓をドンドン鳴らします」
右隣にいた友人が答えた。
「邪気を払うため爆竹を盛大にバチバチ鳴らします」
向かいにいた友人が答えた。
「巫女が祭壇で儀式を行ったあと鉄砲をバンバン鳴らします」
側に控えていた近衛兵が答えた。
「うちの田舎は貧乏なので天に向かってただひたすら祈るだけです」
官僚が尋ねた。
「何を祈るの?」
近衛兵がニヤリとした。
「天帝様、仏様、孔子様、陽を食べたら少しだけ残してくださいってお願いします」
このとき、後ろに控えていた宦官(去勢した役人)が勝手に喋り出した。
「私たちも日食のときには一所懸命に祈っています」
官僚がしかめ面をして尋ねた。
「お前たちはいったい何を祈るの?」
宦官が経文を唱えるように答えた。
「陽が戻るとき、我が偉大なる皇帝の、素晴らしき世界を、以前の姿のままで、お戻しください」
官僚がつぶやいた。
「それは無意味な祈りだな」
宦官が甲高い声で尋ねた。
「ど、ど、どうしてでござますか?」
官僚が腹を抱えて笑いながら答えた。
「だって、陽(男性性器)をとっちゃったヤツが祈るなんてお笑い種だ。無陽から無陽に戻るなんて、まさに“無用”以外のナニモノでもないじゃないか」
陽を守る方法
