あるところに、靴の修理を生業にしている男がいた。
あまりに貧乏で、修理に使う靴底を一足分しか持っていなかった。
そのため、わざと緩く縫って落ちやすくしておいて、帰る客の後をつけて拾い、それを次の客の靴修理に使っていた。
ある日、いつものように客の後をつけたが、気づいたときには靴底がなくなっていた。
目を皿のようにして探しながら家の前まで戻ったが、とうとう靴底を見つけることはできなかった。
男はうなだれて家に入り妻に謝った。
「ホントにすまない。靴底をなくしてしまったよ。オレの腕が悪いばっかりに、おまえに迷惑かけっぱなしだ。申し訳ない!」
しかし、妻は怒るどころか上機嫌だった。
「何を言ってるんですか。靴底は店の中に落ちてましたよ。あなたも腕を上げたんですね。もう外へ拾いに行く必要はありませんよ。ホントにおめでとうございます」
靴底
