鞠を返して

子供が蹴鞠をして遊んでいて鞠を井戸に落してしまった。
子供が井戸を覗き込むと、自分の姿が水面に映った。
自分の影を見て子供が言った。
「お~い、ボクの鞠を返しておくれよ」
当然、返事などない。
子供が大声で叫んだ。
「お願いだから鞠をこっちに投げておくれよ~」
影が返事をするわけがない。
子供が泣きながら訴えた。
「ボクの鞠を返して~」
子供の泣き声を聞いた父親が駆けつけた。
父親が息子に尋ねた。
「いったいどうしたんだ?」
子供が泣きべそをかきながら答えた。
「井戸の中にいるヤツに鞠を取られちゃったよ。ア~ン、ア~ン」
父親が井戸を覗き込むと、自分の姿が水面に映った。
父親が井戸の底に向かって言った。
「お宅の子も鞠で遊びたいとは思うが、その鞠はうちの息子のものだから、とりあえず一回こちらに戻してはくれまいか」

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