あるところに風水信者の役人が住んでいた。
ある日。
よく当たると評判の風水先生に占ってもらったところ、川のほとりの土地に墓を建てれば運気が上がると出た。
さっそくその土地を買って墓を移したのだが、家運が上昇する気配がない。
再度占ってもらうと、風水先生が言った。
「墓を移してから九人埋葬しなければダメじゃ。九人葬れば、たちまち運気が上向くようになっておる」
役人がため息をついて言った。
「先生、うちの家族は孫を入れても八人です。九人目の埋葬はひ孫が死んだときですよ。いったい何十年先になるんですか」
またある日。
地震が起き、役人が土塀の下敷きになってしまった。
まわりの人が集まってきて、地面を掘って助け出そうとした。
そのとき、役人が言った。
「ちょっと待ってくれ。先に風水先生を呼んでくれないか。ここの土地を掘り返してよいかどうか占ってもらう必要がある。オレを助けるのはそのあとにしてくれ!」
庶民が役人の命令に逆らうわけにはいかないが、、占いなんかしていては助かる命も助からない。
ある者が機転をきかせて嘘をついた。
「私は風水先生のところで修行したことがあります。いま見たところ、ここは掘っても大丈夫です」
またまたある日。
懲りない役人は家が栄える墓地の場所を風水先生に占ってもらった。
そこは街外れの荒地で、住む者もないようなところだった。
役人は事情を調べようと思い、畑仕事をしている老人に尋ねた。
「この地に墓を建てさえすればその家は子々孫々栄えること間違いなしと聞いたんだが、それは本当のことかい?」
老人が顔を上げて答えた。
「そうでございますね。そういう話を聞いたことはあります」
役人はニンマリして言った。
「そうか、そうか。やっぱり先生の話は本当だったんだ」
老人が話を続けた。
「しかしでございますね。墓を建てる方はたくさんいらっしゃいますが、墓参りに訪れるご家族は見たことがありません。ですから、ほら、どの墓地も荒れ放題です」
そう言われてみれば、どの墓もすっかり朽ち果てていて子孫が管理している様子がない。
墓参りに来る子孫がいないということは…。