マントウ【註1】を天秤棒に担いで売り歩いている男がいた。
あるとき、いつもは威勢のよい声を張り上げている男が、蚊の泣くような小声しか出さない。
不思議に思った常連客が尋ねた。
「どうしたんだい。今日はやけに声が小さいね」
男は病人のような声で言った。
「うぅ、昨日からなにも食べてないんです」
常連客は笑いながら言った。
「それなら簡単だ。オレがお代を出すから、商売物のマントウをお食べよ」
男はかぶりを振ってつぶやいた。
「このマントウは腐りかけてて、食べたらお腹を壊します」
【註1】餡が入っていない肉まん。漢字で『饅頭』と書く。中国の北方では主食。餡入りはパオズ(包子)という。