あるところに、魔除けを専門にしている道士がいた。
あるとき、屋敷に巣くう亡霊を追い払ってほしいという依頼が来た。
久々の仕事だったので、道士は喜び勇んで駆けつけた。
そして、正門や母屋の柱に魔除けのお札を貼り、屋敷の真ん中で方術を施した。
いつもならここで仕事が終わるのだが、運が悪いことに屋敷には本物の亡霊がとりついていた。
実はこの道士、魔除けが専門とは名ばかりで、生まれてこのかた亡霊など見たこともなかった。
怒り狂った亡霊たちが道士に向かっていっせいに襲いかかった。
道士は家中逃げ回ったが、応接間で追いつかれ、金縛りの状態にされてしまった。
自分の命もこれまでと観念したとき、突然、亡霊たちが苦しみ出した。
運が良いことに今回は厄払いの巫女も呼ばれていたのだ。
巫女は術を駆使して亡霊たちを屋敷から追い出した。
金縛りがとけた道士は巫女の手を握って言った。
「本当にありがとうございました。あなたは命の恩人です。あなたがいなかったら亡霊たちに殺されていました」
巫女が謙遜して言った。
「いえいえ、たまたま運がよかっただけです。今日の亡霊たちは私の術が効く相手でしたから。いつもこうとは限りません」
巫女の話を聞きおわった道士が、懐から古びた紙を取り出した。
「つまらないものですが、どうかこれをお納めください」
「これは何ですか?」
「私が念を入れた魔除け札です。亡霊に襲われたときにお使いください」
本当につまらないものである。