大工の手袋

あるところに、不器用な大工がいた。
材木を削ったり伐ったりするたびにケガをするので、刀鍛冶に特別注文して鋼鉄製の手袋を作ってもらった。
しかし、手は安全になったが、肝心の材木を持つことができない。
困った男は同僚に頼むことにした。
「印をつけて材木を持っててくれねぇか。そうしたら、オレがこの手袋をはめて伐るからよう」
会話を聞いていた棟梁が顔を真っ赤にして怒鳴った。
「おまえは首だ! さっさと出ていけ!」
男がきょとんとした顔をして尋ねた。
「親方、親方。どうして無体なことをおっしゃるんで? 仕事はちゃんとやってますよ」
「うるせぇ! その頭が使いもんにならねぇんだよ」
「手が動くからいいんじゃありませんか?」
「ひとりでできなきゃダメなんだよ! この役立たずが!」
「ちゃんとやってますよ、ちゃんと」
「そんな手袋をはめてちゃ、仕事になんねぇだろ!」
「そんなことありません。仕事はキッチリやってますよ。ほらこの通り」
二人のやりとりを聞いていた大工が、棟梁に耳打ちした。
「親方。コイツは役人上がりですから、口では絶対に勝てませんぜ」

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