あるところに、まったく字を読むことができない男がいた。
せめて自分の息子には読み書きさせたいと考え、なけなしの金を払って家庭教師を呼んだ。
はじめての授業の日。
先生は、息子の手を取り、横棒を一本書かせて言った。
「これが『一』という字だ。分かるか?」
息子は元気よく返事をした。
「はいっ、分かりました」
二回目の授業の日。
先生は、息子の手を取り、横棒を二本書かせて言った。
「これが『二』という字だ。分かるか?」
息子は何度もうなずきながら返事をした。
「はいっ、ちゃんと覚えました」
三回目の授業の日。
先生は、息子の手を取り、横棒を三本書かせて言った。
「これが『三』という字だ。分かるか?」
息子は自信ありげに返事をした。
「先生、もう分かっています」
その日の夜、息子がご飯を食べながら言った。
「父上、文字はすべて覚えたので、もう先生は必要ありません」
吝嗇家の男は息子の言葉に小躍りして喜んだ。
それからしばらくして、役人の万さんを家で接待することになった。
男は招待状の作成を代書屋に頼まず、自慢の息子に書かせることにした。
しかし、一時間たっても二時間たっても息子から書状が届かない。
しびれを切らした男は息子の様子を見に行った。
男が部屋へ入ると、息子はブツブツ言いながら一所懸命に筆を走らせていた。
男はそっと近づいて、うしろから肩越しに声をかけた。
「書状一通で、どうしてそんなに時間がかかっているんだい?」
息子はイライラした声で答えた。
「父上! なんでよりによって万さんなんですか? いまやっと二千本書き終わったところです」
そう言って、両手で紙の束を持ち上げた。
優秀な息子
