鼻と眉の争い

昔の蘇州(現在の江蘇省蘇州市)では、賤民のことを『鼻頭』と言った。
ある成金の鼻頭が金を積んで小役人の地位を手に入れた。
そのお祝いの宴席で、鼻頭が平民よりも上の席に座った。
それを見た代官がとっておきの小話を披露した。

鼻と眉が席次を争いました。
鼻が言いました。
「あらゆるニオイはこのオレが調べている。その功績ははかりしれない。それなのに、どうしてオマエがオレより上座にいるんだ?」
眉が笑って答えました。
「孔子様の時代からオレが上と決まっている。鼻の頭といっても、鼻は鼻。鼻がオレの上に座ったら、身分制度が崩れる。そうなったら世の中が乱れる。そんなことが許されるはずないだろ」
鼻はなにも言い返すことができませんでした。

一同が爆笑すると、成金の鼻頭は会場からそそくさと出て行った。
またあるとき、成金の鼻頭が貴族用の四人持ちのカゴに乗って街へ出た。
それを見かけた代官がカゴに声をかけた。
「今日、官報を見たら、豊臣秀吉の倭軍を撃退したと書いてありましたよ」
鼻頭が言った。
「それでどうだったんです?」
代官が真顔で説明した。
「その秀吉というのがね、身の丈千丈、腰回り百丈という馬鹿デカイ男でね。首を斬ったら、頭が千斤もあったそうだよ」
鼻頭が大仰な声で聞き返した。
「本当ですか?」
代官が大笑いして言った。
「鼻の頭だけでも四人で担いだというからね」
成金の鼻頭は俯いているしかなかった。

封建社会では、いくら金があっても賤民が貴族になることはできない。

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