饅頭怖い

貧乏な男が一計を案じた。
男はマントウ屋の店先で苦しい振りをして大げさに倒れ込んだ。
驚いた番頭が店から出てきて言った。
「おまえさん、大丈夫かい?」
男は心の中でしめしめと思いながら答えた。
「は、腹が減って死にそうなんです」
新手の物乞いだと気付いた番頭は、不埒な男を懲らしめてやろうと考えた。
「そうか、じゃあ何か喰わせてやろう。あらかじめ聞いておくが、嫌いなものはなんだ?」
男は倒れたまま口だけ動かして答えた。
「マントウです。マントウ。あれだけは見るのも嫌です」
それを聞いた番頭はニヤニヤしながら男を小部屋へ運び、蒸籠いっぱいのマントウを投げ込んで戸を閉めて言った。
「ざまあみろ。これで少しは懲りただろう」
しかし、驚くような声はいっこうに聞えてこない。
おかしいと思った番頭は戸をそっと開けてみた。
すると、男がマントウをむしゃむしゃ食べていた。
その様子に腹を立てた番頭が怒鳴った。
「お、おまえ、マントウが大嫌いって言ったじゃないか」
男は平然と答えた。
「不思議なことに、この家に入ったら急に怖くなくなりました」
番頭はさらに声を大きくして怒鳴った。
「それなら今いちばん怖いのは何だ!」
男はマントウがいっぱい入った口でモソモソ答えた。
「お、お茶が怖いです。お茶がとっても怖くなりました」

【解説】
落語『饅頭怖い』の元ネタがこの笑話。マントウは餡の入っていない肉まん(入っているものはパオズ)で、華北では主食。漢字で書くと『饅頭』なので、落語ではマンジュウの話になっている。

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